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2007年07月12日

サイボーグでも大丈夫(後篇)

そして翌朝、パク監督が泊まっている銀座のホテルへ。
なんでもブラピとかマイコー・ジャクソンとかも泊まるところらしく、田舎者には目の毒ですじゃ。控え室で待つ間、スタッフの人に、パク監督がワタシの漫画から影響をうけたことを示すエピソードを聞く。あまりのことなので聞いた途端に爆笑する。あまりのことなのでとてもワタシの口からは言えません。ぎゃははははははは。
笑いながら待つこと20分、いらっしゃいました、天才パク・チャヌク!!おぉー、本物だ!本物だ!アンニョンハセヨー!パンガブスムニダー!
竹書房の人から、「復讐者に憐れみを」で「ぼのぼの」のテレビアニメを無断引用されたことを、「最初にガツンと言ってやってください!」などと言われていたので、ホニャヘララ~と言ってみると、パク監督、その件はとても気にしてたみたいでした。いい人です。
その後は、韓国語通訳の優れたお方と、日本語筆記通訳担当のK君のお陰で、対談はなんとか進行するも、ワタシはとっても舞い上がってたみたいで、「ワタシ」「ボク」「オレ」「オラ」などの一人称が混在する結果になりました。みっともないです。いやいや、「オラ」とかは言いませんでしたが。途中、「オールドボーイ」のイ・ウジン役のユ・ジテが、突然ドアを開けて乱入してきたので、日本人一同凍りついていると、パク監督と「おー、来てたのか」「はい、仕事で」「晩飯でも食おうぜ」「あとで電話します」ような会話が交わされ、ユ・ジテ、あっと言う間に退場。あー、びっくりした。ユ・ジテ、またピストルで自分の頭ぶち抜くのかと思いましたで。
ひとまず対談をすませると、ランチをごいっしょしにホテルの外へ。行ったところはオバアで満員。オバア、うるせい!飯を食いながらどんな話をしてたかというと、パク監督も一人娘、ワタシも一人娘、お互いむずかしい年頃の娘を持つ父親として、身につまされる話とかしてましたです。ホテルに戻ると、サインを交換し、あぁー、なんとワタシは幸せ者だ、と思いましたよ。ひさしぶりにちょっと胃が痛くなりましたけど。あははは。
「復讐者に憐れみを」、「オールドボーイ」、「親切なクムジャさん」と、世界の映画史に残る激烈復讐三部作を完結させたパク監督、今度は出来るだけ遠いところに行ってみたかったんでしょう。それが「サイボーグでも大丈夫」。これをしてラブ・コメだという人もいるかもしれませんが、予告篇を観たらみんなそう思うでしょうね。そして頭の中で「ははーん、あの線なのね」などと、あらまほしき映画を思い描くでしょうが、あなたの予断は一切覆されます。これはパク監督の映像を作り上げる力を思い知る映画です。こんなの作れるのは世界中で三人しかいません。「嫌われ松子の一生」中島哲也、「アメリ」ジャン=ピェール・ジュネ、そしてパク・チャヌクっス。
「サイボーグでも大丈夫」、ピもかわいい、イム・スジョンもかわいい、かわいいかわいい映画です。まさにギザかわゆるっス。パクさん、またどこかで必ずお会いしましょう。

投稿者 igarashimikio

2007年07月03日

サイボーグでも大丈夫(前編)

めずらしくまた東京でした。今回は「オールドボーイ」で知られる韓国のパク・チャヌク監督と会うためです。新作「サイボーグでも大丈夫」のプロモーションで来日するので、ぜひ会ってもらえないかとの話を受けたんですが、編集者とか広報の人というのは、時として、片方には「あの先生があなたをとてもヒイキにしていて会いたがっている」、また片方には「昔からの先生の大ファンだそうなので、ぜひ一度会ってやっていただけませんか」などと方便を言っては、無理々々としたセッティングをされてしまうことがあるので、今回もその線なのではないかと疑ったんですが、パク監督は「復讐者に憐れみを」で、「ぼのぼの」のテレビアニメを挿入していたことは、この目で観て知っているので、あながちデタラメとばかりも思えない。そしてなにより、ワタシがパク監督の大ファンだというのはまちがいないので、ノコノコ行きましたよ、東京へ。
なんか最近こればっかり言ってますが、ワタシは耳が悪いので、対談とかテレビ出演とかの仕事はだいたい断っています。しかも今回は通訳の人が間に入るわけで、果たしてどんな混乱が巻き起こるのか想像もつかない。しかし、まぁ、誰か人が死んだりするわけじゃないんだからと思い、対談の前日は、別件の仕事を早々と終わらせると、浅草方面へフラフラと。浅草の路地をウロウロし、オープン・カフェならぬ、オープン飲み屋でまだ明るいうちから牛すじ突っつきながらビールをゴクリ。ご機嫌ですね、旦那。その後、一度乗ってみたいと思っていた念願の水上バスに乗ったり、築地で寿司食ったりしてました。楽しい、楽しい。あははは。
水上バスに乗って、いわば裏側から見る東京というのはスペクタルです。「よくもまぁ、こんなの作ったもんだなぁ」と圧倒されます。ローマは一日にしてならず、とか言いますが、日本人だったらローマぐらい三日で作っちゃうんじゃないでしょうか。あ、ごめん、ローマの人たち。
その夜は、明日のことを考えて、余力を残しつつ早々とホテルに戻りました。余力を残しつつベッドに横になったつもりが、余力なんかぜんぜんなかったのか、まだ10時前だというのに、コトンと寝入ってしまったとです。目覚めたのが11時過ぎ。ワタシはだいたい毎日二度寝睡眠なので、顔を洗って歯を磨くと、今起きたばっかりにもかかわらず、「さぁーて、寝るかー」とつぶやきつつ、ほんとに寝てしまいましたばい。
対面にいるおフランスっぽいオヤジが、「負けは負けだしねー」などと言っている。上家のセレブっぽいオバアも「払ってもらわないと」とか言う。ワタシが「あれ?千点100万円って冗談じゃなかったの?」と言うと、下家の女医っぽいねえちゃんが「冗談なわけないでしょ」とボソリ。「えぇーっ、じゃぁオレ3億6千万の負け!?」と叫びながら目を醒ますと、ホテルの窓からドンヨリとした東京の夜明けが見えました。
こんな馬鹿馬鹿しい悪夢を見るのは、麻雀で有名な竹書房がとってくれたホテルだからにちがいないなどと、さらにドンヨリした頭で考えていると、今日のパク監督との会談へも、なんだかギザドンヨリの暗雲が立ちこめるのす。さぁ、どうするワタシ!!
今回はパク監督に敬意を表して、「映画ゾンビ」はじまって以来の前後編コンティニューへ突入。

投稿者 igarashimikio

2006年08月17日

ローズ・イン・タイドランド

帯状疱疹にかかりました。居眠りしてる時にメガネでこすったんだろ、とか思ってツバつけといた右眉の赤い傷、それがだんだん白く広がってきてヒリヒリする。どうも治りがよくないので、土曜日に内科から外科から泌尿器科から皮膚科までやっている近所のヤブ医者へ行くと、「ヘルペスかも」と言う。やおら本棚の前に行き、皮膚病関係の巨大な書籍を引っぱり出してきて、最悪のヘルペス患者のサンプル、この人このあと死んだでしょう、としか思えない写真まで見せられながら、いつ頃なったのかと聞かれたので、火曜日あたり、と答える。そしたら医者は「じゃぁヘルペスじゃないかも」などと言いつつ、抗菌剤と消毒液だけ出して、自分は翌日から5日間のお盆休みに突入してしまいました。それでそんなに大事と思っていなかったワタシも、3日前にケンカで負けました、みたいな顔のままノコノコ映画館へ。
ところがその夜からカサブタが広がり、周辺にヤケドの火膨れのようなものができるわ、まるでお岩のような顔になるわ、全身に水疱ができるわ、右側頭部にかけてパルス状の強烈な頭痛が走るわで、これはたまらんというわけで翌日、急患なら日曜日も診てくれる病院を探しました。最初に、ワタシの人間ドックのデータもある病院へ行ったら「皮膚科の先生がいないので」と断られ、次に15年ぐらい前に一度救急車で運び込まれたことがある病院へ。ほー、建物新しくなったなぁ、大きくなったなぁ、などと言いながら、入って行くと、診てくれるというのでホッとする。診察室で待っていると、休日当番の医者2名、ともに若いイケメンが出て来たので、運転手兼付き添いの嫁さんも心なしかウキウキ。よかったな、嫁さん。イケメン医者2名、慎重な協議の上、「帯状疱疹でしょう」ということになり、ちょうど少し残ってたという抗ヘルペス薬と軟膏を出してもらい帰還しました。今はもう治りかけです。
で、その土曜の夜に観たのが、テリー・ギリアムの「ローズ・イン・タイドランド」です。「サイレント・ヒル」にも出ていたジョデル・フェルランドちゃんの主演です。ジョデルちゃん、いいです。結局、これ、完成、即カルトになっちゃったような映画です。稀代のビジュアル・アーチストとしてのギリアムの才能を再確認するようなシーンもありますが、オタクを野放しにするとやりたいようにやってしまうというか、隣の席の若い女の人が画面を正視出来ずにうつむいてしまうようなシーンもあります。そのシーンをおもしろがるにはワタシはもう身も心もゾンビ過ぎるので。
じゃぁ、大したことない映画かというと、ひさしぶりにギリアムらしいギリアムの映画です。しかし、ワタシはこの映画を観逃したとしても後悔しなかったでしょう。もちろん、観て後悔したわけでもないですが。でも、ヘルペスなのにおとなしく家で寝てればよかったという後悔はあります。

投稿者 いがらしみきお

2006年04月14日

TAKESHIS′

今週もまた観るものがない。春休みも終わったというのに、どこのシネコンもまるで談合したみたいにアニメとかお子ちゃま映画ばっかりです。そう言えばシネコンとゼネコンて名前も似てますが、まぁ、ほんとに悪いのは映画会社の方かも。
前回の昼メシ理論に例えれば、こういう時は変わったものを食うしかない。いつもは麺類しか食べないんですが、今回は丼物、しかも駅ビルにある呑み屋のランチメニューのかき揚げ丼。うーん、ここのかき揚げはデカすぎて晩メシになってもまだ胃の中に残ってそう。というわけでDVDで「TAKESHIS′」を観ました。
たけし、なんでもフラクタル構造みたいな映画を作りたかったらしくて、こうなったそうです。なるほど、フラクタルなので当然時間軸も入り組んでいて、シーンの冒頭にフラクタル始点としての唐突なインサートカットがあったりします。というわけでこれをフラクタル映画というんなら、「メメント」はリバース映画で、「21グラム」はジグソー映画で、「アレックス」はリワインド映画ということになるでしょう。
「フラクタル構造で映画を作ってみたい」という欲求自体、ワタシにはわからないですが、たけしは「観客を混乱させたかった」とも言っています。ほんとに観客を混乱させたい監督なんかいるのかどうか、これもワタシにはよくわかりませんが、いるとしたら前記「アレックス」のギャスパー・ノエぐらいなもんかも。「アレックス」では劇場のお客さんがワタシの前で次々と帰って行きました。トイレで吐いてる人もいたとか。まさに「観客を混乱させた映画」と言えるんじゃないでしょうか。いや、そういうのは「観客を帰らせた映画」または「観客を吐かせた映画」なのかな。あははは。
確かに時間軸が入り組んだ映画なので、とっつきにくいですが、ワタシにはその方がよかったです。次のカットやシーンの予想がつかないので最後まで寝ないで観られました。しかし、たけし、これは自分の映画のセルフ・パロディなので、次からはもうドンパチなんかやれないんじゃないでしょうか。あとタップも。少なくとも「もうやらない」という覚悟のようなものはあったと思いましたが。

投稿者 いがらしみきお

2005年12月01日

東京ゾンビ

浅野忠信がアフロヅラ、哀川翔がハゲヅラで、東京に大量出現したゾンビたちと戦う「東京ゾンビ」、12月10日からの公開ですが、訳あって観る機会をもらいました。公開前の作品をレビューするなんてほんとの映画批評みたいで少し緊張します。
「東京ゾンビ」、花くまゆうさく氏の漫画が原作です。もしかして、そういうつもりで作ったのかもしれませんが、これ、今の世相丸ごとです。最近、ワタシ街を歩いていても、テレビを観ていても、お互いわかり合えそうもない人がすごく増えてるような気がします。いったいどう言えばわかってもらえるんだろうというか、絶対に意志疎通がとれないゾンビに対した時のような無力感。「無力感」とか言いながらも、ワタシもアフロかハゲヅラ被って漫画家なんかやってるみたいなこの感じ。この「東京ゾンビ」の世界が今のワタシの気分にたいへん近いです。たぶんトシなんでしょうけど。
浅野忠信と哀川翔が演じるところのフジオとミツオ、鉄工所で働きながらも柔術の師弟として日々鍛錬し、ロシアに行って最強の男になるのを夢見てます。ちょっと見には柔術オタクのように見えますが、こういう人をオタクとは言わない。オタクというのはある人に言わせると「なにかを諦めた人たち」だとか。ワタシもオタクというのは「見たことがあるものしか欲しがらない人たち」だとは思います。そう考えるとフジオもミツオもオタクの条件から外れるでしょう。
最近はオタクだらけです。「オタク」という言葉自体がもう悪口じゃないので、自ら「わしはオタクである」と公言する人もいます。もしかするとこの映画のゾンビとはオタクのことかもしれません。そう考えると、この映画は、なにかを諦めないで、まだ見たことのないものを信じてる人とオタクの戦いだということにもなる。その戦いをギャーギャー喚きながら高見の見物してるのがババアどもなので、なんかまたこれも今の世相丸ごとだよな、と思うんですよ。オタクに怨みはないですけど。
これ、カテゴリーに困ったんですが、ホラーでもコメディーでもなくファンタジーにしておきました。最近、なにをどう語り合ってもわかり合えそうもない人が増えて来たなぁとか、自分はオタクではない、と思ってる人には必見の映画です。エンディングは感動的なエクソダスになるでしょう。

投稿者 いがらしみきお

2005年11月09日

ブラザーズ・グリム

テリー・ギリアム、7年ぶりの新作です。その7年の間に「ラ・マンチャの男」を撮り損ねたメイキングフィルム「ロスト・イン・ラ・マンチャ」もありますが、映画というと、あの「ラスベガスをやっつけろ」以来なんですね。あの「ラスベガスをやっつけろ」は、ホメてる人を見つけるのがとても困難な映画です。たぶん世界全体を見渡して、そこにギリアム本人を入れても、あの「ラスベガスをやっつけろ」をホメる人は21人ぐらいしかいないかも。まぁ、21人いればいいとも言えますが。
しかし、「細木ババアに10日後に死ぬと言われたら観ておきたい最後の10本」とかいう企画があったら、ぜひそこにギリアムの「フィッシャー・キング」を入れたいと思ってるワタシですので、嫁さんと子供は外出、晩メシはひとりで外で食ってこい、と言われた土曜の夜には、行きます、シネコンに、フラフラと。
たぶん寝るだろうな、と思ってたんですが、なぜか混んでて、隣の席に妙齢のご婦人が。そのご婦人が気になって眠れなかったというか、いや映画もなかなかだったというか、ギリアム、マジメに撮ってるな、テクだけ期待されてるんならテクだけ見せてやろうじゃねえの、という気構えが見えるというか、こんなご婦人にわざわざ観に来てもらえるなんて、テリー、おまえってエライよ、と言うか、とにかくご立派でした。
で、妙齢のご婦人に後ろ髪引かれつつ帰路についたのが11時過ぎ。その後、薄ら寒い3人ぐらいしか乗っていない地下鉄に寒々と揺られながらも、まだ妙齢のご婦人の幻影にうなされつつ、やっぱり映画ってのは映画館で観るものだな、と思った夜でした。

投稿者 いがらしみきお

2005年09月20日

チャーリーとチョコレート工場

「チャリチョコ」です。家族といっしょに観に行く約束が、先にひとりで観てしまったのですごく怒られました。うぐぐぐ。ほんとは「銀河ヒッチハイクガイド」を観たかったんですが、仙台ではやらないようなので今週は他に観たいものがない。地方のシネコンじゃ今や「銀河ヒッチ−」なんかどこもやりませんしね。だいたいにおいてSFとかホラーなんてものにはおばさんは来ない。おばさんが来ないものはやらない、というのが最近の日本のショー・ビズの現状です。
昔の経済原則はなにをさておいても「若い人」でした。若い人が来ないものには誰も来ないし、若い人が飛びつかないものはブームにもならないものと決まってましたが、今やほとんどのイニシャチブはおばさんが握ってるような気がします。では若い人はどうしてるかというと、ジリジリとオタク化してしまっている。昨日なんか、ウチの嫁さんも娘も、なんのためらいもなく自分を「オタクだよ」と言ってしまうので、ちょっとびっくりしました。「オタク」っていつのまにか悪口じゃなくなってます。
ティム・バートン監督と言えば、オタク文化のアイドルみたいな人ですが、「オタク」が悪口じゃなくなるのと同じようにが、この人の作品もどんどん普遍化してきてます。ただ、それは評論家の言うところの「ティム・バートン特有の毒がなくなった」とかいうことが理由じゃないでしょう。毒なんて抜くのも入れるのもそんなに難しいことじゃないんで。たぶんティム・バートンはやっぱりオタクだからでしょう。オタクの経験値って有限なんですよ。
「チャリチョコ」もテーマパーク巡りみたいな映画ですが、スモールワールドですね、これ。たぶんティム・バートンはスモールワールドが一番好きなんでしょう。でも、スモールワールドが一番好きっていうオヤジに言うべきことはなにもないじゃないですか。「ああ、そうですか。いいですよね、スモールワールドも」としか言えない。そんな映画です。

投稿者 いがらしみきお