#33 ペルソナ
先日、はじめて競馬場に行きました。福島競馬場です。馬好きの嫁さんのお伴で行って来たんですが、ワタシの家から福島まではクルマで1時間半ぐらい。福島の町を通るのははじめてじゃないですが、いいですね、福島。古びた家並みが昭和を感じさせます。昭和どころか明治を感じさせる家もありましたが。
その家々の真っ只中に競馬場があると言うので、ちょっとびっくり。案の定、周辺の道は渋滞だらけで、しかし、クルマで来ている人も歩いている人も雰囲気がハレっぽく高揚しています。みんな一刻も早く競馬場に行きたいんでしょう。そんなに早く行きたいもんですか、競馬場って。
入場券を買おうとして、一歩中に入ると、うおぉ、これが競馬場っスか。建物はともかく、来てる人がスゴイ。なんつぅか、みんなどこかで見たことがある、と思ったら、鬼海弘雄の写真集「PERSONA」(ペルソナ)に出て来る人たちではねいでぃすか。どうせみんなここで検索するんでしょうから、「PERSONA」については説明しませんが、ワタシの大好きな写真集です。ここに出て来る人たちだけで漫画を描いてみたいと思ったことさえあります。ぜひご覧ください。ワタシの言う「ペルソナ」とはどういうものなのかよくわかるはず。
しょっぱなからペルソナの人たちに圧倒されたままエスカレーターに乗ると、上に行くほどペルソナ度が薄くなるのに気がつきました。我々の座った4階の指定席は二人隣り合わせの席のためかカップルが多いのでペルソナ度はさらに薄い。そして5階の方だと馬主とかエグゼグティブとか高貴な人たちがいるらしく、ペルソナ度は限りなく0に近いかも。いやいや、もしかすると反対にペルソナ度がぐい~んと高くなっている可能性もありますが。あははは。
とにかく1階のペルソナ度は凄まじかった。まだ午前中だというのにスポーツ新聞を敷いて寝てしまっている人や、まるで家出した妻の書き置きを読むが如く競馬新聞を睨みつけている人、立ち食いそばをかきこみながらエスカレーターを駆け上って来る人もいるし、通路の椅子を机がわりにして競馬新聞を3つも4つも広げて壁に向かったままピクリとも動かない人もいるし、ここではとても書けないような人もいました。みんな競馬以外のこと、自分にさえ興味がなさそうで、そのファッションのジャージー率の高いこと、それからTシャツ率とノースリーブ率も高かったことも、ひとまずご報告しておきたいと思います。
鬼海弘雄の「PERSONA」には、きっと50パーセント以上の確率で我々の将来の姿が写っているのではないでしょうか。ワタシはこの写真集に写っている人たちを恐れを持って見ました。ワタシはこういうことをおもしろおかしく言うヤツではありますが、決して誰かを差別するつもりはないので念のため。ついでに誤解を恐れずに言えば「PERSONA」には「人の果て」が写っていると思います。
24歳の時、印刷屋に勤めてもう4年たっていました。田舎の暮らしにもバンドにも飽きて、日々強くなるジリジリとした焦燥の結果、生まれてはじめて4コマ漫画を描いてみた。そして7月のある日、会社を無断欠勤して夜行列車に乗り、東京の出版社に向かいました。上野に着いたのがまだ7時前、ひとまず開いている喫茶店でピザトーストなんかを食べ、エロ劇画誌を出している出版社をふたつ回りました。ひとつは午前中なので誰もいなくてビルの守衛のおじさんに門前払い、もうひとつは控えてあった住所には会社もなにもなくなっていて呆然としていたら、近くを歩いていた日本人とは思えないおばさんに「その会社もうそこないよ、あっちの印刷屋の2階いるよ」と教えてもらい、木造の印刷屋の木造の階段を上って行くと、そこもまだ誰もいないという。しかし、夜行での強行軍でもう疲れてしまっていたので、「原稿おいて行きますんで編集部の人に渡してもらえませんか」などと適当なことを言うと、午後は新宿で映画かなんか観て帰って来てしまいました。そのおいて来た原稿がデビュー作になったのですが、まったく人の運命はわからないものです。木造の印刷屋の場所を教えてくれたあの日本人とは思えないおばさんがいなかったら、ワタシもどんな「人の果て」になっていたか。
今回の写メは嫁さんの携帯で撮ったものです。福島競馬場前です。ワタシも片隅に写っています。アロハ着てます。「ペルソナ、ペルソナ」言っていたら、「パパだってペルソナっぽいよ」と言われたことをご報告して終わらせていただきます。
