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#32 箱根へ

32.jpg娘が大きくなりましてね、もう大学生です。今春から横浜の方に引っ越しました。それで今は嫁さんと二人だけの家庭です。子どもがいなくなると果たしてどうなるかと思ったんですが、いたものがいなくなるというのはやはりさびしいものです。娘が階段を下りて行く時の「トントトン」という音がしなくなりました。

大学に合格して勉強もあまりする必要がなくなった頃、家族三人でやれることというわけで、何度か映画を観に行きました。そのうちのひとつが「かいじゅうたちのいるところ」です。これは家族でとても楽しみにしていました。なにしろ原作の「かいじゅうたちのいるところ」は、娘が子どもの頃、何度も何度も何度も何度も何度も何度も読んであげた絵本です。嫁さんがお風呂に入れる役で、ワタシが寝かしつける役でしたが最初は逆でした。ワタシがお風呂に入れる役で、嫁さんが寝かしつける役。それが娘の頭を洗う時に、ワタシがお湯を頭からガッパリとかけてしまうので嫌われました。頭を洗う時にシャンプーが目に入るのを怖がるヤツだったので、サッサと終わらせるためにガッパリかけてたんですが、まぁ、それはいいです。

それで「かいじゅうたちのいるところ」。予告の画面やポスターのさびしげな雰囲気を見たら、もう家族で涙目になってしまい、スパイク・ジョーンズが監督するというのがどっちに転ぶか不安でしたが、まちがいなくいい方に転んでると思いました。なにより怪獣たちがCGではなく着ぐるみだったので。

そして観に行くと、オープニングの音楽が聞こえると同時にワタシは無防備になってしまったのです。こんなに無防備に映画を観るなんて何年ぶりだろう、てか、もしかしたらはじめてじゃないか、とさえ思いました。最近なにを見てもメソメソ泣いてしまう嫁さんは、もう最初っからウルウルグズグズダラダラでした。娘はというと、主人公のマックスが怪獣たちと楽しく暮らしているところを見て「あぁ、こんなに楽しそうに暮らしてるのに別れてしまうんだなぁ」と思ったら泣けたそうです。つまりこれは自分の状況にかけているわけです。娘は高校とかとても楽しそうに通ってました。それに自分の家だって好きだったはず。そして友だちも。それが大学に行くという理由だけで、友人たちと別れ、仙台と家からも出て行かなければならない。なんだか理不尽です。それで泣けたんでしょう。

ワタシは、マックスとの別れの時、怪獣のキャロルに真ぁぁっっっ正面から「お~~~~~~ん」と泣かれたので、たまらず「わ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」と泣いてしまいました。頬を伝う滂沱の涙に、映画観てこんなに泣くなんて何年ぶりだろう、てか、もしかしたらはじめてじゃないか、とかまた思いました。

先月、友だちの結婚式に行って来ました。場所は箱根です。箱根なんてはじめてです。それでせっかくなので、その帰りに神奈川に住んでいる知り合いのお宅にもお邪魔し、翌日は横浜にいる娘にも会って来ようというプランを立てました。なのにワタシはその前に風邪をひき、治りかけの咳だけがいつまでも残っている状態で、まぁ、なんとかなるだろと思ったら、4月なのにとんでもない寒波がやって来て、静岡、神奈川、東京と周ったのに、どこへ行っても仙台より寒い。特に箱根に前泊まりした時は、朝起きたら窓の外が真っ白で、ボドボドボドと大雪が降っていたのにはまいりました。

新郎54歳と新婦45歳の初婚のカップルにお祝いの言葉をかけ、ウェディング・パーティを引き上げると、急いで強羅の駅に向かい、箱根登山電車に乗りました。ほほ~、これが箱根の山の登山電車か、と思いながら、景色を見ようにも外は冷たい雨が降っていて、窓が曇ってしまいなにも見えない。しかたないので、ワタシの前に立った韓国人新婚カップルのアツアツベタベタエヘエヘ状態でもミセヨ、カンサツサセヨとか思っていたら、どんどん眠くなってしまい、例の有名なスイッチバック走法というのもウツラウツラした頭では単なる逆走のようでした。

神奈川の知り合いのお宅ではおいしいお刺身をごちそうになり、人の家の味噌汁はうまいなぁ、などと勝手なことを思い、そして娘のいる横浜へ。

横浜にいる娘はなんだか変な感じでした。だって娘が横浜にいるなんて。とにかくご飯をいっしょに食いに行き、「ほ~ら、箱根の山の登山電車」と言いながら、強羅で撮った写メを見せると、娘「お~~~~~!!」、「すごい、箱根の山の登山電車!!」と言いました。

昔々その昔、娘がまだ子どもだった頃、「はこねのやまのとざんでんしゃ」という絵本が好きで、これも何度も何度も何度も何度も何度も何度も読んであげていたのでした。その絵本のラストの「強羅~、強羅~、終点で~す」というセリフを、ワタシは横浜駅地下の喫茶店の中で高らかに言ってみたりしたのでした。そして娘には風邪を置き土産にして帰って来ました。ごめんよ。あははは。

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〝人生というのは過去にしかないものだと思っています。ものみな過去にあるのです〟
魂の漫画家・いがらしみきおが現代日本に放つ自伝的フォト&エッセイ! 「ぼのねっと」にて独占公開!

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