#31 ミュージシャン・コンプレックス
バンドをやる漫画家は多いです。思いつくだけでもあの人この人あんな人とたくさんいます。誰だ、「あんな人」って。あははは。
かくいうワタシも印刷屋に勤めながらバンドをやっていました。パンク勃興の頃なので、まさに音楽は最強モードの時。バカだからやっぱりパンクやったです。ジャムとかストラングラーズとかイアン・デューリーがお気に入りでした。ストラングラーズのジャン・ジャック・バーネルのマネをして、曲を作ってベース弾きながら黒のスリムジーンズはいてボーカルやってましたが、まぁ、お笑い芸人のはなわと変わらない。いつだったか、ひさしぶりにベースギターのケースを開けてみたら、その頃に作ったオリジナル曲のメモとか歌詞が出て来て、そばにいた人間に見られましたが、我が生涯あんなにはずかしい思いをしたことはない。戯れに描いたエロ漫画をおふくろに見つけられた時の方がよっぽどマシでした。
バンドをやっていたというと、パートはなんだったとかよく聞かれますが、ワタシはベースからはじめてギターとドラムをやりました。バンドのメンバーが抜けると、そのパートを受け持ったりする泥縄野郎なので、だいたい見よう見まね、譜面も読めないし、結局、なにひとつモノにならなかったです。やっている音楽もパンクからはじまって、イベントのステージに呼ばれるとダンパ用ロックンロールをやり、ホテルのパブに出るために歌謡曲までやるという節操のなさで、しまいにメンバーが3人しかいなくなると、いきなりフリー・ジャズはじめるようなわけわかんないバンドでした。バンド名は「馬の骨」っス。
バンドをやっていた3年間はなんでも起きました。家出、駆け落ち、同棲、妊娠、結婚、ケンカ、交通事故、警察沙汰。ほんとです。漫画だけ描いてたらなにも起きなかったでしょう。青春したけりゃバンドやれ、というのは鉄則です。もっともそんな青春したい若い人が今時どれだけいるのかわかりませんが。
ワタシにはいとこの兄妹がいて、兄の方は鼻の穴がほんとに小さいヤツで、あまり小さいので小指も入らないぐらいでしたが、どうやって鼻糞ほじくってたのかはともかく、今回の話は妹の方です。幸せうすい娘でした。兄は鼻の穴が小さいし、おじさんは酒○だったし。コロコロとした体形でよく笑う女の子でしたが、鼻の穴の小さい兄はその妹を邪険にし、実はワタシも邪険にしていました。
おじさんおばさんが共働きということもあって、小さい頃はよく兄妹でワタシの家でご飯を食べていた。そうすると自分のおかずも少なくなってしまうので、子どものワタシとしてはなんだかおもしろくなかったんでしょうね。了見狭いです、ワタシも。しかし、妹の方は邪険にされてもいつもニコニコと笑っている。
ワタシが東京から帰って来て、印刷屋に勤め出した頃、彼女はさらに丸々とした高校生になっていました。ワタシは昼飯はウチに帰って来て食べていたので、その時間帯によく遊びに来るようになり、漫画家になるとかホラ吹いてるヤツだったので、ワタシが親しみやすかったんでしょう。ま、それだけが理由じゃなかったですが。
最初は東京の話とかしてやっていましたが、そのうちまためんどくさくなり、だんだん邪険になる。まぁ、バンドやってるから遊びに来いとか言ったら、来ました。何度となく。練習していた公民館が、そのいとこの家から近かったというのもありますが。
バンドのメンバーとも顔見知りになった頃、彼女は家出をした。おばさんから電話がかかってきましたが、どうもはじめての家出ではない雰囲気でした。ともかくバンドの他のメンバーにも電話してみたのですが、誰かから伝わったのか、当時ボーカルとキーボードをやっていた女から「隣り町のスナックでいとこを見た」という電話が来た。それでその件をおばさんに電話したんですが、ワタシは耳が悪いので、どこかで間違って伝わってしまったらしく、いとこはそのボーカルの女といっしょにいるという話になってしまったみたいで、折り返しその女から猛烈な抗議の電話が。「あんだ、なぬ聞いでんの!」「誰がいっしょにいるなんつったの!」「そのスナックで会っただげだっつうの!」「あんだ悪いっ」「あんだが悪いっっっ」。ドラマーの女でしたが、怒らせるととても怖い女でした。しょうがないのでバンド仲間にクルマを出してもらって、そのスナックとか行きそうなところを探し回りました。もう夜中なので見つかるはずもないのに。
3日ぐらいしてから、いとこが見つかったという話を聞いたのはおふくろからでした。友だちのところに泊まっていたそうな。ワタシはワタシでムカついていたので、もうどうでもよくなってたです。
その後、そのいとこに会ったのは、彼女が高校を出た頃で、別人のようにスリムになっていました。実は彼女は若年性糖尿病だったと聞いたのもその時です。家出の件のこともあったので、なんだかよそよそしいまま別れましたが、まさかそれが最後になるとは思いませんでした。その翌年、彼女は結婚し、盲腸の手術中に亡くなってしまいます。糖尿病の食餌療法などで体力が落ちていたのが原因とか。まだ20歳でした。早すぎる結婚でしたが、早く家を出たかったんでしょう。
お盆などのお墓参りではそのいとこのお墓にも手を合わせて来ますが、なんだかいつも後ろめたい気持ちと引け目を感じます。彼女は嫁いだ家のお墓ではなく、実家のお墓に入っているのでした。そのお墓にもう30年もひとりぽっちで入っているのです。その事情は聞けないままですが。
写メは、先月ゴンチチのコンサートに行き、楽屋を訪ねた時のものです。真ん中がワタシです。わかるでしょうか、ワタシのコンプレックスが。
