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#26 セイタカアワダチソウ

26.jpg毎年この季節、セイタカアワダチソウを見ると不安になるワタシです。アメリカ外来種で、一時期花粉症の原因にされたり、その繁殖力の強さから全国で目の敵にされたりしたほど悪い草ではないそうですが、どうもあの真っ黄色のまがまがしい姿を見ると、いやなリアルを感じます。それで娘から「学校の近くにでっかいセイタカアワダチソウがあるよ」との情報を元に、写メしに行って来ました。これです、これです。まさにオニセイタカアワダチソウです。2メートル以上あります。リアルです。いやな感じです。なんだか身の危険さえ感じました。

え~、都落ちしたワタシは田舎に帰り、川沿いにある工業団地の誘致工場に勤めます。プラスチックの育苗箱とか野菜カゴを作る工場で3交代制でした。そこで働いているのはほとんどが農家のオッサンとオバサンで、若い人は数えるほどしかいない。農家のオッサンが集まるとセクハラの嵐というか、聞くに堪えない言葉と差別だらけで、なんだかこういう世界がいやで東京に逃げたのに、その真っ只中に帰って来てしまった感さえありました。だから当時のワタシは暗い暗い。誰とも話しをしない人間に戻ってしまったです。

バカでかい成型機械の前に一人で立ち、プレスされた製品を取り出してはバリ取りをするのが仕事でしたが、休憩にでもならない限り人と話しをしなくてもすむのはよかったです。3交代の夜12時から翌日8時までのシフトだとさらに人が少なくなるのでワタシは好きでした。夜明けを見るとホッとしたり、外がだんだん明るくなってくると気持ちも少しずつ明るくなる。夜勤にはそういう時間がありました。

その工場は若い男もマレなら、若い女はさらにマレです。そういうマレ同士だと、男も女もすぐ接近する。彼女はワタシよりひとつ年上でしたが、それは問題ではなかった。問題なのは彼女には子どもがいたし、実は旦那もいたことです。そしてよくある話かもしれませんが、その旦那というのが刑務所在住でした。

彼女は隣町に住んでいたので、とりあえずウチの町の方で飲みに行ったりしましたが、人妻の手前、あまり人目のつくところでは会いたがらない。しかたないので変なところでばかり会ってました。夜の学校の校庭とか、夜の川原とか、夜の堤防とか、夜の橋の下とか、お互いの顔さえよく見えないような場所で。運転免許がないワタシは、そういうところに自転車で通いました。雪がシンシンと降る夜、タイヤが半分ぐらい雪に埋まりながらも、自転車を漕ぐのをやめない自分のイタイケさに感動して鼻をたらしたりしてました。あははは。

結局まぁ、そういう関係はなんともしようがないです。ある夜、彼女を橋の下で待っていたら、マスクをしてやってきました。どうしたんだと聞くと、マスクをとった口の周りが青黒く腫れていた。さらにどうしたんだと聞くと「自分で考えなさい!」と怒られました。ワタシはその時20歳です。「もしかしたら旦那が出所してきたのかな」などとも考えましたが、そのあと彼女は会ってくれなくなり、工場も辞めてしまいます。

その頃のワタシの仕事はというと、工場が培養土の新プラントを立ち上げることになり、プラスチック成型の方からそちら専従になっていました。プラントを設計した若いイケメンの技師が東京の本社から来て、部下はワタシともう一名だけ。しょっちゅう故障するプラントを抱えて、若い技師は端正な顔のヒゲも剃らず、どんどん痩せて無口になり、ワタシも故障するたびにプラントの中に潜り込んでは、頭から鼻の穴まで土まみれで真っ白になる。彼の方がワタシの何倍も孤独そうで、声をかけられませんでした。

しかし、そういうワタシだけ出世したように見えたのか、農家のオッサンたちはワタシにもいやがらせするようになった。育苗用の培養土なので、そのためビニールハウスを作って苗を植えてテストしていました。その苗が何度となくむしられている。だいたい犯人のメドはついていたので、そのオッサンをハウスに呼びつけたら、オッサン「オリがこんなごどやったっつうのが?」などと言いながら、ヘラヘラと目の前で苗をむしり始めたので、ワタシがキレて髪の毛を掴むと、オッサンはバリ取り用にいつも持っている小刀を出し、そこで誰かが止めに入りました。

あぁ、あの頃はこんなことばっかりでしたが、ワタシは働くというのはそういうことだと思ってました。川沿いにあったその工場にいた頃、セイタカアワダチソウなんていくらでも目にしたはず。だけどそんな記憶はどこにもない。きっとそんな草なんかどうでもよかったんでしょう。