#18 フロム・ヘル
なんだかいきなりの大不況ですね。気持ち的には、ギャンブル狂いのオヤジがパチンコで大負けしたため、無一文になってしまった家の子どものようです。「このバカオヤジが」というのが、偽らざる心境ってものではないでしょうか。
ところでこんな時に、我が家にまたひとつお人形がやって来ました。ほんとは去年の12月にアメリカから着いているはずだったんですが、年末と不況のため物流が混乱したのか、行方不明になってしまっていた。
雪降るニューヨークのゴミ箱に捨てられてしまったお人形。寒さに震えながらゴミ箱のフタをそーっと持ち上げて外を見てみると、通りの向こうを歩いていたホームレスと目が合ってしまう。驚いたお人形、慌ててフタを閉めてゴミ箱の中でブルブル。そしてもう一度こわごわフタを持ち上げてみると、そこにはこちらを覗いているホームレスのでっかいふたつの目玉が!さぁー、その後はホームレスに拾われ、子どもたちの人気者になり、市長のひとり娘を助けたため、いつしか市長候補に担ぎ出され、政治家の醜い足の引っ張り合いから、なぜか大統領候補に!!そして、なんとなんと、お人形はとうとうアメリカの大統領になってしまうのでしたー!!勝った!勝った!YES WE CAN!あははは、ピクサーのアニメだったら、あると思います。
まぁ、それはともかくお人形です。このお人形、なんとイスラエルに飛ばされていたのでした。テルアビブ空港に積まれた真っ暗な箱の中で、時折、遠く爆発音や銃声や悲鳴なども聞きながら、まんじりともしない夜を過ごして幾歳月。誰かがこの荷物に気づいてくれて、ようやく日本に送り届けられたのです。そして、我が家にたどり着いて、荷を開けてみたら、ニッコリしたかわいいお人形のはずが、あぁ!なんということに!!
ではなくて、最初からこういう顔のお人形だそうです。ほんとは嫁さんが考えた名前があるんですが、ワタシは「ヘル」と名付けました。フルネームだと「フロム・ヘル」です。
このお人形の目を見た時、なんだか惹かれました。家出した後、高校を辞めて、左官屋のバイトをしていた時があります。朝早いのはともかく夜も遅い。まだ完成していない家の中はとても寒くて、裸電球の下、手が上がらなくなっても、壁塗りさせられた。壁コネだけで、塗りまでやらされるとは思っていませんでしたが、やれ、と言われればなんでもやる。コンクリート減らせと言われれば減らし、客には黙ってろよ、と言われれば黙り、2週間で2万円もらえるはずが、1万円でガマンしろ、と言われればガマンしました。
そのバイトをしていた時に三島由紀夫の割腹事件が起きた。しかし、ワタシは三島由紀夫など知らず、テレビで時々見たことがある歌手の三島敏夫のことだと思っていたのです。顔も似てるし。なんであんなヘナヘナな歌をうたっているオッサンが切腹なんかするのか、この世はさっぱりわからないことばかりだと思いながら、このヘルくんと同じ目をしていたような気がします。
