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#09 思い出のビフテキ重

09.jpg「昔はよかった」とか「抒情」とかばっかり言ってると、そういうヤツだと思われるので、今回はグルメをやります。えぇえぇ、グルメですよ。

ワタシの携帯の中には、ちゃんと「おいしいもの」というフォルダもあります。しかし、この「おいしいもの」フォルダにあるのはスイーツが圧倒的です。しかもアンコものばっかり。ワタシ、アンコ好きなので「食べ物で一番好きなのはなんですか」と聞かれると、だいたい「アンコ」と答えてます。スーパーに行くと、袋入りのアンコの前で、呆然と立ちつくしている時もあるぐらいです。

その「おいしいもの」フォルダの中の数少ない「料理」として、東京は飯田橋、竹書房向かいにある「日本の洋食 津つ井」のビフテキ重があります。このビフテキ重に出会ったのは、たぶんワタシが漫画家になってそんなに間がない頃で、当然、竹書房の編集の人に連れて来たんだと思います。となると、もう25年前とかそんなものなので、「肉」と言ったら「カルビ」じゃなくて、まだ「ビフテキ」だった頃です。今、言わないでしょ、ビフテキなんて。別に言わなくてもいいですけど。

その頃、前歯が欠けた田舎者だったワタシは、津つ井のメニューを見てもなにを食えばいいのかわからなかった。しかし、ビフテキ重は当時、店内に写真も飾ってあったんじゃなかったか、津つ井の名物料理として。その写真を見たら、「これは食べやすそうだ」と思った記憶があります。なにしろ人といっしょにご飯食べるのに慣れてなかったもんで、ナイフとフォークを使う料理だけは避けたかった。それで「ビフテキ重」。いい値段でしたけど。

これがうまいっ。炭火で焼いたビフテキにタレをかけ、バターを載せただけなのに、こんなにうまいっ。ご飯もよかったです。硬めで粒が立ってて、噛みしめるたびに「キュッキュッ」と音がする感じ。飲み込む時もノドがキュッと鳴りそうでした。あー、これは料理の泣き砂や。お口とノドが泣き砂状態やー。ヒコマロか、オレは!

ワタシはこの時、「うまいもの」というのは、うまいと思われるように作られたものだということがわかりました。そんなこと当たり前だろ、と言われるかもしれませんが、ワタシがそれまで「うまい」と思っていた正月のあんこもちとかは、ただの「好物」だったのです。「うまいもの」と「好物」はちがう。「うまいもの」は遠くにあり、「好物」は近くにある。「うまいもの」を「好物」と言う時、人はグルメと呼ばれ、「好物」を「うまいもの」と言う時、人は「食いしん坊」と呼ばれるのでしょう。たぶんちがいますが。あははは。

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〝人生というのは過去にしかないものだと思っています。ものみな過去にあるのです〟
魂の漫画家・いがらしみきおが現代日本に放つ自伝的フォト&エッセイ! 「ぼのねっと」にて独占公開!