#05 向こう岸へ
子どもの頃の夏休みはいつも川にいました。朝起きると川で泳いで、家に帰って昼飯を食うと、またすぐ川に行きました。川がなかったら、なんてつまんない人生だったろうと思います。人には川が必要です。海だったらもっといいかもしれませんが。
ワタシが泳いでいたのはこの写メのところではなく、もう少し下流にある大きな橋の下でした。今でもその橋を渡って田舎に帰るし、その橋を渡って田舎を去ります。いちいち感傷に浸れるように出来ているニクい町ですね。ニクい橋というか。
その川も、アユを放流するために石や砂利を投入し、川の形も変わってしまい、今ではもう誰も泳ぎません。なのにいつのお盆だったか、ワタシの兄弟3人がそれぞれの子どもを連れて、泳いだことがあります。誰が言い出したのかは忘れましたが、こういうことを言い出すのは、だいたい二番目の兄貴なので、たぶんその時も「みんなで泳いでみるかー、なー」などと無茶振りしたんだと思います。もちろん、我々の他には誰も泳いでいません。川に入ってみると、腰ほどの深さしかないし、川底は石がゴロゴロしていて、サンダルを履いてないと歩けないぐらいです。しかもその石にはコケとかこびりついていてヌルヌルしている。潜ってみたら、水が濁っていて、目なんか開けていられないぐらいで、今思うととても泳ぐとかいう状態ではなかった。子どもたちは怖々とお風呂に入るみたいに川に浸かり、嫁さんたちは「ほんとにこんなところで泳ぐの?」という感じで、岸でヒイていましたが、我々兄弟3人だけは、生白い体に、それぞれピチピチやブカブカのパンツをはいて「ぎゃはははははははははははははは」と、とんでもない盛り上がりでした。まさに狂乱の不惑三兄弟、上から長兄46歳、次兄43歳、ワタシ41歳ぐらいの夏のことですだす。
川の向こう岸というのは不思議なもので、どうしても行ってみたくなります。昔は川幅も広く、流れも速く、深くて、子どものワタシにとっては、とても泳いで行ける感じがしませんでした。しかし、ある日一念発起、無理して泳いで行ったら、ちょうど川の真ん中で溺れてしまって、ワタシはブクブクと沈みはじめた。その時飛んで来た浮き輪と、水面に光った波紋の映像を、ワタシは一生忘れないでしょう。そして浮き輪を投げてくれたのは、誰あろう二番目の兄貴なんですが、残念ながら、彼はその時のことをさっぱり覚えていないそうです。
この写メに見える向こう岸にも、ワタシは未だに行ったことがありません。相変わらず、国境の向こうを見るような目で見ています。
